茂木健一郎氏特別対談

ネイス体操教室で脳の奇跡がおこりますね!

茂木健一郎(もぎ けんいちろう)

脳科学者 / 作家/ブロードキャスター/コメディアン/ YouTuber /ネイス体操教室アドバイザー 1962(昭和37)年東京都生まれ。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院物理学専攻課程修了、理学博士。〈クオリア〉をキーワードとして、脳と心の関係を探究している。著書に『脳と仮想』『ひらめき脳』『生命と偶有性』、小説『東京藝大物語』など。2018年には『IKIGAI―日本人だけの長く幸せな人生を送る秘訣―』を英語で執筆し、話題となる。

体操で地頭が鍛えられる

体操で地頭が鍛えられる
ネイス体操教室 代表 南(以下、南):
本日は、よろしくお願いいたします。レッスンを見学していただきましたが、率直なご意見をお聞かせください。

茂木健一郎先生(以下、茂木):
実は、脳にとって体を動かすということは、とっても大事なんです。小脳という部位が体操で体を動かすときに使われているんですが、最近の研究で、その小脳が言葉を理解したり、計算したり、そういった高次認知機能(ワーキングメモリー)でも使われている。体操で地頭を鍛えるということが脳科学のエビデンスで分かってきています。あとは、子供がお互いに与える刺激。一人だと難しいんだけど、みんなでやるからできる、これが大きいと思いましたよ。それから、先生も素晴らしかったですね。

運動すればするほど、脳は発育する

運動すればするほど、脳は発育する
南:
脳科学的に運動するのに効果的な年齢はありますか?

茂木:
動物行動学で見ると、動物はある月齢でたくさん遊ぶ時期があります。目いっぱい色んな動きを使って遊ぶことによって脳のシナプスが結合し、記憶力や学習力が高まります。全ての年齢において効果的ですが、特に2-5歳のお子さんは一番神経細胞が繋ぎ替わっている時期なので、その時期に運動することは脳の発育にとってはとても大切です。大人になっても当然有効で、遊べば遊ぶほど(運動すればするほど)神経細胞が繋ぎ替わるので、アンチエイジングや認知症予防に有効です。

体操で自分の限界を超える経験をすると
勉強や仕事でも挑戦し乗り越えようとする

体操で地頭が鍛えられる
南:
ネイス体操教室は、「体操を通じて成功体験を積み、結果として自信をつけていく」ことを目的としています。脳科学的見地からみて、勉強などにも応用できますか?

茂木:
脳科学的視点で見ると、一つのことで努力することを覚えた子、自分の限界を超えることを覚えた子は、他のことにも応用が可能です。でんぐり返しができた、跳び箱が飛べた、バク転ができた等、できなかったことに挑戦し、できるようになっていくことは、誰しも長い人生の中で何度も何度もやらなきゃいけないことです。それを乗り越えられるとドーパミンという物質が中脳から前頭葉に出て、前頭葉を中心とする神経活動が活性化して、神経細胞と神経細胞のつなぎ目が強くなるという強化学習(レインフォースメント・ラーニング)が起こります。何かをやろうという目標意識だとか、努力を続ける力、集中力とか、運動の時に使われる脳の回路は、勉強や仕事をするときの回路と全く同じなんです。いろんな場面で自分を支えてくれる貴重な経験となります。

ネイス体操教室で脳の奇跡がおこる!?

運動すればするほど、脳は発育する
南:
ネイス体操教室では、親御さんにお子さんができたことをお家でも褒めてあげてくださいねとお伝えしています。褒めることが甘やかしに繋がるのではないかと不安に思われる親御様もいらっしゃいますが、「褒める」ことについて、どのようにお考えですか?

茂木:
子どもの研究をしているエモリー大学(米)のフィリップ・ロシャという友人がいますが、「自分が大切だと思う大人に、自分の上達や達成する姿を見てもらうことは、子どもの発達を促す」と言います。お勉強だとどこが達成なのか分かりにくいから、お父さんお母さんは褒めるタイミングを逃しがちです。でも、体操は、例えば「逆上がりが出来た」とか達成が把握しやすい。達成したタイミングで褒めてもらえると、子どもの脳に奇跡が起こります。頑張ることは大切なんだと、一生忘れられない体験になるんです。だから、お父さんお母さんは褒めてくださっていいんですよ。体操の課題はお子さんにとっては不安だったり、場合によっては怖かったりします。そこで十分試練を得ていますから。このように、子どもは社会に出たら自然と厳しい課題に向き合うことになるんです。他にも、お友達の家に行ったら我儘を言ってはいけないとかとか、分かってるんですよね。だからネイス体操教室はある意味、社会の始まりなんですよ。

体操は心の安定にも繋がる

体操は心の安定にも繋がる
南:
ネイス体操教室では、跳び箱や鉄棒といった学校体育の種目だけではなく、後出しじゃんけんや風船リフティングといった様々な動きを取り入れた脳育体操も行っています。脳科学的な効用があれば教えてください。

茂木:
後出しじゃんけんで、合図を出したら勝つ、合図を出したら負ける。いわゆる文脈を切り替えることが前頭葉の機能を鍛えることに繋がり、子どもの脳の働きにとって重要となります。すぐにキレる大人が増えていると言われていますが、これは感情をつかさどる偏桃体と前頭葉との力関係によります。偏桃体の方で怒りを感じたり、悲しみを感じて気分が落ち込んでも、前頭葉がしっかりしていれば心の安定が保てます。また、脳の研究で分かってきているのが、身体を使ってバランス感覚を養うことが、結果として心のバランスに繋がるということ。脳育体操でも重心のバランスを取る動きが入ってますよね。バランスを取ることの大切さが、理屈じゃなくて身体で分かるってことが大事です。だから、ネイス体操教室で体操をすると将来幸せになるんじゃないですか?(笑)

これから必要になるスキルは「創造性」と「コミュニケーション力」

運動すればするほど、脳は発育する
南:
今の子どもたちが大人になる20年後の未来、どのようなスキルが必要になると思われますか?

茂木:
「創造性」と「コミュニケーション力」ですね。正解の決まった問題をどれくらい早く解けるか、ということで日本の入試も行われてきました。そのような日本の教育の在り方が見直されてきています。例えばハーバード大学はどんな学生を欲しがっていると思いますか?ペーパーテストでは選ばれません。ハーバードが求めているのは、まさに創造性とコミュニケーション力。正解が決まったものを早く解くというのは人工知能ができることだから、それを子どもたちがやってもしょうがないと時代を先読みしているんですね。創造性とコミュニケーション力のカギになるのが身体だと考えられています。「身体を動かして自分で何でもやってみる」「色んな人とコミュニケーションをとる」ことで育まれます。頭の良さの概念も時代と共に変わってきていて、今の「賢さ」は、テストで良い成績を取る「賢さ」ではなく、アスリートの「賢さ」です。アスリートが自分の頭と体を使って、壁を乗り越えていく、今までできなかったことができるようになる、これが「賢さ」の定義に変わってきていますね。